これからの女性皇族

毎日新聞
これからの女性皇族 
作家・保阪正康さん、毎日新聞・大久保和夫記者が対談

毎日新聞 2013年10月25日 東京夕刊
 ◇79歳皇后さま 宮中祭祀を引き継いでほしい
 ◇紀子さま「国の宝」守る緊張
 ◇コースを出たい雅子さま

体調不良をおして公務に励まれる皇后美智子さま(79)、運動会で娘の成長に目を細める皇太子妃雅子さま(49)、
次々世代の皇位継承者の母である秋篠宮妃紀子さま(47)
女性皇族の「今」に、かつてないほど国民の関心が集まっている。
あるべき皇后像とは何か。そして皇室はどこへ向かおうとしているのか。
昭和史や皇室の歴史に詳しいノンフィクション作家の保阪正康さんと
皇室取材歴通算18年の社会部、大久保和夫記者が語り合った。【田村彰子】

―美智子さまは20日、79歳の誕生日を迎えました。

大久保 誕生日に際し、宮内記者会の質問への回答で、公務や宮中祭祀(さいし)について
「ご負担の軽減が必要ではないか」との問いに対して、こう心中を明かされたのです。
<昔ながらの所作に心を込めることが、祭祀には大切ではないかと思い(中略)
そうした所作を体が覚えていてほしい、という気持ちがあります。
前の御代からお受けしたものを、精いっぱい次の時代まで運ぶ者でありたいと願っています>。
時代に合った新しいことも必要だが「不易流行」、
変わらないものを体験しながら引き継いでいくことの重要性を次代に託しています。

保阪 これはすごい。偏った愛国心はお嫌だとしても、
天皇、皇后両陛下には、日本の伝統文化である宮中祭祀を守っていきたいというお気持ちが強いのでしょう。

―今月末には熊本県水俣市を訪れ、水俣病患者や遺族と初めて懇談する予定になっているなど、
美智子さまの公務の量は全く減っていません。
皇后の役割や存在感は皇室の中でも際立っているようです。

保阪 近代で比較するなら貞明(ていめい)皇后でしょう。
4人の男子を産む一方、体が弱かった大正天皇に代わって宮中を取り仕切り、
皇太子、のちの昭和天皇の外遊にも意見したと伝えられています。
美智子さまはより一層陛下を立てながらも、お二人で「対」になって一つの役割をつくり上げている印象があります。
美智子さまにこれだけ国民からの支持があるのは、
「私は皇后としてこういう役割を果たしたい」というご意志と、それに対する努力が国民によく見えるからでしょう。

大久保 昭和天皇ご夫妻は香淳(こうじゅん)皇后が3歩下がってついていく感じでしたが、
美智子さまは半歩か1歩下がりつつ上手に息を合わせている。
「国民と共に」が両陛下の原点で、被災地で被災者に膝を突き合わせて話すのは「平成流」の象徴です。

―一方、適応障害と診断された雅子さまは約10年間、療養が続いています。

保阪 雅子さまにしてみれば自分の主体性を顧みてもらえず、
皇室の枠組みにはめ込まれていることに適応できないのではないか。
外務省で仕事をしてきたキャリアウーマン、自己主張をしっかり持っているわけですから。

大久保 印象的なシーンがあります。
ご静養の帰京の取材で東京駅で、愛子さまを抱っこした雅子さまが
記者から5メートルほど離れたところを歩いていたのですが、
突然、私たちの方にやってきてお話をされたのです。そんなことをする皇族はいなかった。
宮内庁が想定したコース、アレンジから飛び出したいとの思いを感じました。

保阪 例えば旧華族のご出身なら、あまり悩まなかったのかもしれない。
非常に頭のいい方だけに「こうあらねばならない」と、自己への強い命令形があるように見受けられます。

大久保 天皇陛下が即位後に老人福祉施設を訪問してゲームに参加された。
年配の宮内庁職員は、「先帝陛下はそんなことはなさらなかった」と天皇の威厳の喪失を嘆いた。
そうした「平成流」への批判が一時期、皇后バッシングに転換していった。周囲は旧来の発想しか持っていない。
ならば、皇太子ご夫妻の方から「こうしたい」と発信し続けるしかない。
先ほど語った天皇と皇后の距離感でいえば、
皇太子殿下と雅子さまは横に並んで同じペースで歩こうとしているように見えます。
それはそれで新しい皇后像と言えないでしょうか。

保阪 新しい皇室像を切りひらかれた両陛下としては、
皇太子ご夫妻に対し伝統的な祭祀は引き継いでほしいと希望しながらも
「あなたたち自身の天皇家をつくっていかなければならない」と考えているはずです。
経済的にも政治的にも世界の枠組みが縮まっていく中で、
グローバル化された皇室像は一つのかたちとして理解できる。
雅子さまが外国との交流など分野を選んで積極的に活動されるなら、国民もきっと理解を示すと思います。

大久保 グローバル化で日本も多文化、多様な価値を受け入れる社会になっていく中で、
外国生活が長い雅子さまのキャリアが生かされる活動が期待されます。

―雅子さまに皇后としての働きができるのかと、疑問視する向きもあります。

保阪 務まりますよ。やり手だった貞明皇后からすれば、
あまり表に出なかった香淳皇后は物足りなかったかもしれません。
それでも家を守るという役割を立派に果たされた。一つの時代の模範的な女性だったのです。
皇后像は務まる範囲の中でつくられる。そういうものです。

―安倍晋三政権になり、女性宮家創設の議論はストップしたままです。
中ぶらりんの状況の中、将来の天皇の母になる可能性が高い紀子さまの注目度が高まっています。

大久保 江戸後期の光格天皇以来、今の天皇家は直系男子で200年以上継承されてきました。
皇室典範が変わらなければ、悠仁さまは近代以降初めて宮家から継承することになる。
それだけにその母親へ視線が集中している。

保阪 秋篠宮家の中で次々世代の天皇を育てる緊張感は相当に強いはずです。
「国の宝」を預かっているようなものですから。

大久保 悠仁さまが歩き始めた頃、転んで口を切って大出血したことがあります。
その時の紀子さまの驚き、ご心痛ぶりは大変なものだった。
美智子さまを模範として、皇室の在り方を守るのが使命だと心得ている方ですから。

―親子・兄弟間で確執があるのではとメディアで臆測されることがありますが。

大久保 昨年から陛下、皇太子さま、秋篠宮さまが定期的に懇談の場を設けていますが、
これは美智子さまのご提案と聞いています。

保阪 お互いの意思疎通を図って、次世代への準備をする場を美智子さまが演出されている。
今の皇室は全体として美智子さまの配慮がよく行き渡り、
それによって保たれていると言えるのではないでしょうか。

大久保 その一方で皇室の周囲や政界に、よき理解者が減っているのではないかと危惧しています。
高円宮妃久子さまが2020年五輪開催地決定の
国際オリンピック委員会(IOC)総会に出席することが決まったとき、
風岡典之・宮内庁長官が「両陛下も案じられていると拝察した」と発言し、
これに菅義偉官房長官が「違和感がある」と異議を唱えました。
最側近の宮内庁長官が「拝察する」と言えば、イコール両陛下の思いなんです。
戦後生まれの権力者は皇室との距離の取り方がルーズになっている気がする。

―今後の皇室のあり方を考えるときに皇室典範の問題は避けて通れません。

保阪 大日本帝国憲法と同時に皇室典範ができ、男系男子が優位になった。
戦後の改革の中で典範だけが帝国憲法型の状態です。
これを今の日本国憲法型に変えたい、つまり女系天皇を認めてもいいとの思いを
天皇陛下はお持ちかもしれないと私は思うのですが、どうですか。

大久保 そこは分かりません。何世代も続けてきた男系男子の皇統を
自分の代で変えることでの懊悩(おうのう)は深いと思います。
とはいえ、安定した皇位継承のための典範改正は必須です。
男女格差を固定化した体系の中では、女性皇族は古いしがらみから救われない。
変わらないところもあるが、時代とともに変わったところがあるからこそ皇室は続いてきたのです。


■人物略歴
◇ほさか・まさやす
1939年生まれ。「昭和史を語り継ぐ会」主宰。著書に「昭和史の大河を往く」(毎日新聞社)、
「明仁天皇と裕仁天皇」(講談社)など。

■人物略歴
◇おおくぼ・かずお
1947年生まれ。71年入社。社会部記者として昭和時代から宮内庁を担当。
サンデー毎日編集部デスクなども務めた。
http://mainichi.jp/feature/koushitsu/news/20131025dde012040021000c.html