皇室守るは時の為政者

産経新聞2009年1月7日
皇室守るは時の為政者

「ご自身のお立場から常にお心を離れることのない将来にわたる皇統の問題をはじめ、
皇室にかかわる諸問題をご憂慮の様子を拝しており…」
昨年12月11日、宮内庁の羽毛田信吾長官は、胃腸にストレス性の炎症が見つかった
天皇陛下のご心労についてこう語り、原因の一つに皇位継承問題があることをうかがわせた。
発言はあくまで陛下のお気持ちを忖度した長官の私的見解ではあるが、宮内庁関係者によると、
長官の発言内容はあらかじめ陛下に伝わっているという。
庁内では「陛下のご意向とはそう違わない内容」との見方が大勢だ。
皇統問題に関して陛下が記者会見などで踏み込んだ発言をされたことはなく、
陛下が実際のところどうお考えなのかはうかがい知れない。
しかし、われわれ一国民であっても、皇統の現状を考えれば将来の皇統維持に不安を覚えるのも事実だ。

「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」。皇室典範第1条にはこう明記されている。
現在、皇位継承権を持つ男子の皇族は7人だけで、
未成年は秋篠宮ご夫妻の長男、2歳の悠仁さましかいらっしゃらない。
安定的な皇位継承は、確かに現代の皇室の最重要課題である。
平成18年9月に悠仁さまがお生まれになるまでは、女性天皇・女系天皇を認めようという意見も強かった。
このまま皇室に男子がお生まれにならなければ、
現行の皇室典範では皇位の継承が極めて困難になるという危機感も反映した意見だった。
17年11月には政府の「皇室典範に関する有識者会議」で、女性・女系天皇を容認する報告書が出された。
政府もこの路線に沿った皇室典範改正案を国会に提出しようとしたが、
悠仁さまのご誕生を受けて見送られている。
女性・女系天皇をめぐる拙速な議論は沈静化したが、同時に皇位継承問題に関する議論も沈静化してしまった。
悠仁さまのご誕生で男系男子による皇位継承が当面は維持される見通しになったとはいえ、
それはあくまで当面の話だ。
悠仁さまの同世代の皇族がいらっしゃらない現実を考えれば、
皇統は極めて不安定な状態にあると言わざるを得ない。

歴代天皇はこれまで125代にわたって、すべて男系で継承されてきた。
皇室問題に詳しい八木秀次・高崎経済大学教授は
「この原理を変えてしまえば、天皇ではない別の存在になってしまう。
天皇としての正統性は、生まれながらに備わった要件から得られる」と強調する。
歴史上、8人10代の女性天皇がいるが、いずれも男性天皇の血を引く男系の女性天皇だ。
「女性は皇位の継承者にはなり得るが、皇統の継承者にはなり得ない」(八木教授)のだ。
過去にも皇統の危機に直面したことはあったが、
直系に男子がいなければ傍系の男子が天皇に即位し皇統を維持してきた。
そもそも、現在の天皇陛下から6代さかのぼった直系のご先祖であろう光格天皇が、
傍系から即位した典型的なケースである。先代の御桃園天皇とは、7親等離れている。
共通の祖先は、光格天皇から3世代さかのぼった東山天皇だ。

しかも光格天皇は、世襲親王家の少なさから
将来の皇統を案じた新井白石の進言で作られた閑院宮家の出身だ。
将来を見据えて対策を講じたことで、皇統は現代まで連綿と維持されている。
八木教授は「皇統を一本の幹に例えると、その脇に出たいくつもの枝が宮家。
直系の男子がいなければ傍系が肩代わりする形で、皇統は維持されてきたといえるだろう」と話す。

現代において男系男子の皇統を守るためになす得る方策は、
①旧宮家の復活②皇族の養子を認め、旧宮家の男系男子を皇族とする―などがある。
②の場合、「天皇及び皇族は、養子をすることができない」とした皇室典範第9条の改正のみによって
皇統を維持することができる。
旧皇族の竹田家に生まれた作家、竹田恒泰氏は「皇統の危機は去っていない。今こそ議論しなければ、
本当の危機を迎えてしまう。ただ、まず女系天皇ありきでなく、男系男子という連綿と受け継がれた原則を
いかに貫徹するかという観点から議論すべきだと指摘する。
一度は下火になった皇位継承問題を、再び白紙から検討する必要があるのだ。
陛下の元側近の一人は「歴史上、時の権力者は皇室を守ってきた。今の政治家は今後の皇室について
もっと真剣に考えなければならない。江戸時代の幕府でさえ考えていたのに、悠仁さまのご誕生で
安心しきってしまった」と、現在の政治状況を憂える。竹田氏も「皇位継承問題は、政治家として
歴史に名を残すことができるほど大きな課題だ」と話す。
麻生太郎首相は、実妹が寛仁親王妃信子さまという皇室と極めて近しい関係にある。
実体経済の悪化という緊急課題への対応を余儀なくされているが、
天皇、皇后両陛下のご即位20年・ご成婚50年という節目の今年こそ、
皇位継承問題を改めて考え直すチャンスといえるだろう。
(白浜正三、内藤慎二)