提論 明日へ(古川貞二郎)

西日本新聞
2012年(平成24年)3月18日付 

提論 明日へ 古川貞二郎 元内閣官房副長官

女性宮家創設に向けて識者のヒアリングが始まった。現行のままだと未婚の女性皇族が結婚によって
皇族の身分を失うことになり、皇室の安定的活動に支障をきたす恐れがある。
政府は危機感を抱いたと理解される。
その意味では、女性宮家の創設は一歩前進とみることができよう。
ただこの問題は、日本国憲法が定める象徴天皇制と深くかかわる事柄であり、
議論が皇室活動のみにとどまるのであれば問題である。
この際、皇位継承について国民合意の形成へ、きちんとした議論をしておく必要がある。

私は2005年、政府に設立された皇室典範会議の委員を仰せ付かった。
その立場から幾つかの問題について整理してみたい。
会議の目的は、皇位の安定継承が危ぶまれている現状を踏まえ、
小泉純一郎首相からその方策を求められたことである。
安定継承が危ぶまれていないならば男系男子の現行制度を議論する必要は全くなく、
当該典範会議の設置もなかった。
この点、誤解があってはならない。

なぜ危ぶまれるのか。大きく二つの社会的背景がある。一つは晩婚化。
かつては社会一般がそうであったように、皇族の多くが20代で結婚され、
第1子誕生は妃殿下が10代後半か20代前半で、皇族の数も多かった。
その二は、側室制度の廃止。ちなみに江戸期以降400年の間に18代の天皇が即位されたが、
そのうち15人が側室からお生まれになった。
側室制度は皇位の安定継承を支える重要な役割を果たしていたともいえる。
今日その制度が認められないのは申すまでもない。

こうしたことから典範会議の報告書では、社会の変化に対応しながら象徴天皇制を維持するうえで、
皇位継承者の範囲を女子や女系の皇族に広げることが適当であるとされた。
女系天皇(女性天皇の男女を問わない)については種々議論があるが、
女性天皇を認めても女系天皇を認めないと、対象者が一代だけ加わるにすぎず、
皇位の安定継承を図る趣旨にそぐわない。

報告書は05年11月、小泉首相に提出された。
これを受け政府は翌年春の通常国会に法案を提出する準備を進めていたが、
秋篠宮妃殿下がご懐妊されたことにより静かな社会環境の中で慶事を迎えたいという心情が働いたことと、
その間、皇室制度について国民の理解が深まることを期待することなどから
法案提出が見送られたものと承知している。
皇位継承問題は依然、重要課題として残っている。

女性天皇・女系天皇に反対する立場の考えは、1947年に皇籍から離れた旧宮家の独身男性が
男系男子に当たるという理由から皇族に復帰させる案とか、
その方々の中から皇族に養子を迎える案などがあるが、
誰をどう選ぶかという難問に加え、皇籍離脱から64年を経過していること、
現天皇の系統と約600年前に分かれていること、晩婚化などで早晩同じ問題が生ずること、
養子という人為的制度は皇位を選ぶのにふさわしくないことなど問題が多い。

何より象徴天皇制は、現天皇、皇后両陛下の日常のお姿を見ても分かる通り、
国民との相互信頼があってこそ成り立つものである。
男系男子というだけで国民の信頼が得られるかどうか。過去、皇籍離脱後に復帰、即位した例は、
平安時代に3年間離脱していた宇多天皇とその離脱中に誕生した醍醐天皇のみである。
旧宮家の場合、離脱後長く民間人として過ごしており、
国民感情として受け入れることはなかなか難しいと言わざるを得ない。
これからは抽象論ではなく具体的事実に即して考えていく必要があろう。

最後に申し上げたいのは、女性・女系に範囲を広げても、現在皇位継承の資格がある方が
先順位で皇位につかれることが皇位の安定継承の趣旨から考えて当然である。
女性・女系天皇の誕生はあるとしても先のことだが、今日対象範囲を広げておかないと、
結婚により対象となる女性がいなくなり、そのとき議論しようとしても手遅れになる。
国民合意の形成は急がれる。

今日の提論は、九州を含め日本の将来に深くかかわる重要課題として
国民一人一人に冷静かつ真摯に考えていただくため、あえて女性皇族問題を取り上げた次第である。