外交官時代にはなかった「笑顔」

週刊文春2013年5月16日号
上田修子(ライター・元外務省職員)
外交官時代にはなかった「笑顔」
私は平成二年に外務省に入省して、霞が関の本省で勤務した後に
オランダの“お隣”ベルギーにて在外公館の仕事に携わりました。
“お隣”といえば、私が本省の中南米局に籍を置いていたころ、
雅子さまは同じフロアで隣接しる北米局にいらっしゃいました。
私が入省した当時の雅子さまは、すでにお妃候補として名前が報じられていたこともあって、
周囲に心を閉ざされている印象でした。
私は隣の課に在籍していたので、毎日お手洗いや廊下ですれ違っていたわけですが、
視線や言葉を交わすことは許されないオーラを発していらっしゃいました。
ある朝、売店で雅子さまと出会ったときに、惣菜パンのようなものをお求めになっていました。
ご自宅で朝食をとることも難しいほど、ご多忙なのだとお察ししましたが、
同時にこんなつまらぬことにまで顔見知りでない他の職員から関心を持たれるのだとも思い、
周囲に心を閉ざされるのも無理からぬことだとお気の毒に思ったものです。
一方、雅子さまの同期だった同僚の外交官からは、
心を許した親しい人とは和やかに交流されているといったエピソードは耳にしておりました。
この度のオランダ訪問のご様子が、テレビで繰り返し流されています。
外務省時代には見ることのできなかった雅子さまの笑顔を拝見して、大変失礼ながら、
ご自分のお気持を持ち上げようとご無理をなさっているのではないかと推察して胸が苦しくなりました。
私が勝手に雅子さまのお気持の変化を想像するのは不遜なことではありますが、
ご訪問先で皇太子殿下とアイコンタクトをとられた際の一瞬のご表情が、
心を許した相手のみに見せる、同期の方からうかがった本来の雅子さまのパーソナリティが
表出されたものではないかと感じました。一口に外交官といっても、いくつかのタイプがいます。
代表的なのは、世間の皆さんがイメージするような根っからの社交家。
職業外交官の七割程度はそういう方々で占められています。
たとえば、かつて上司だった前駐米大使の藤崎一郎氏は、
私のような新入職員にも常に笑顔とユーモアをもって温かく接してくれました。
雅子さまは、そのような不特定多数の方に愛想よく接するタイプではなかったようにお見受けしました。
外務省という組織には非常に特殊なカルチャーがあり、
霞が関の他省庁のことを「国内官庁」と呼ぶ強烈なエリート意義を持っています。
現在オランダにいらっしゃる雅子さまのお父様・小和田恒氏は、
その中でもトップである事務次官まで務められた大物外交官です。
私にとってはもちろん雲の上の存在でしたが、省内では大変厳しい方だと有名でした。
当然、雅子さまが育ったご家庭と皇室の環境には、非情に大きなギャップがあるのでしょう。
国内でのご公務を欠席している中での海外訪問には、私の周囲でも批判的な意見が少なくありません。
ただ、もはや海外渡航はさほど特別ではない時代です。
得意な分野から取り組まれることで雅子さまの笑顔が増えるのであれば、歓迎すべきことではないでしょうか。