116万体の遺骨を見捨てた厚労省

WiLL-2008年9月号
116万体の遺骨を見捨てた厚労省 

野口健・東條由布子対談
一部抜粋

東條 
厚労省の遺骨収集は昭和27年から始まって、第三次遺骨収集が終わった昭和48年ごろ打ち切りになりました。
現在でも一応、確実な情報があれば収集に行きますし、1年に1度は沖縄で厚労省主催の遺骨収集をやっています。
しかしこれには問題があって、国家から日本遺族会に出るお金の中から、
一部厚労省へ渡り、参加者へお金が配られているようなんです。
…沖縄では午前と午後合わせて4時間弱しか実際の収集をやらなかったんです。
移動や食事の時間に多くを費やし、遺骨もほとんどなくて、
歯や頭蓋骨の一部、破片などを集めて「四柱集めた」なんてやっている。
沖縄までやってきてたったこれだけかと思うととても情けなかった。
作業終了後に厚労省の方から「日本遺族会」と書かれた封筒に入れられたお金を手渡されました。
中を見てみると、7万円も入っているんです。…
もらうわけにはいかないので「返します」と言ったのですが、
「通常の航空券代や宿泊料で計算すると大体これくらいになるので、返されても困ります」と言われたんです。
200人近くが参加していましたから、一体いくらかかったのか。
もっとたくさん遺骨があるところが海外にいくらでもあるのに、
何ともったいないんだろうと泣きたくなるような思いでいっぱいでした。
そして、地元の子にはお金が出なかったので、三人で分けたんですが、
翌年参加すると、その時は地元の子もお金をもらっていたので「どうして?」と聞いたら
「沖縄以外の人にはお金がでるから、住所を別のところにして申請した」と言うんです。
沖縄の人には申し訳ないんですが、そういう色々なことがイヤになってしまってそれから参加するのをやめました。
毎年この遺骨収集は2、3月の年度末に行われるんです。
予算あわせと、「やってます」と言うための、単なるセレモニーとして行われているように思えてなりません。

東條 
厚労省は骨を数える時に、頭蓋骨1個で1柱、両腕で2柱、両足で2柱と数えるんです。
となると1人分で5柱になってしまうから、あっという間に予定数に達したということなんでしょう。

東條
…打ち切りになったことに怒った民間の団体が、直後からか活動を始めたのですが、
遺骨調査は出来ても、日本への持ち帰りは民間は許されないんです。
南洋諸島だけでも113万柱あることは分かっているし、
実際調査に行って、洞窟にある骨が遺留品や状況から日本兵の遺骨だと分かっても、
民間はそれを持って帰ることはできません。
とにかくその部分は「厚労省の管轄だから」という。
それどころか、厚労省が「遺骨収集は終わった」としているところへ
「まだここにもあるぞ」という情報が来ると困るのか、
民間の活動の邪魔をしたり、向こうの大使館に「活動させないように」と連絡を入れることさえあるんです。

野口 
厚労省だけではなく、外務省管轄の現地の大使館もあまり協力的ではない。
「この件に関しては一切関わりたくない」とはっきり言われたこともあります。
どうして外務省がそんなに冷たいのか。父に聞いてみたところ、
ひとつには侵略した側の骨であることがネックになっている。
侵略された側の国へ入っていって、侵略した側の兵士の骨を集めるというのが、
外交的に難しいと外務省は言うそうです。
しかしアメリカはベトナムでも朝鮮でも遺骨収集を継続しているし、
むしろ遺骨収集活動をしない国は世界で軽蔑される。…
もうひとつは、管轄の問題で、現場は外務省の管轄、骨は厚労省の管轄という点です。
二つの管理部分が重なったところの話なので、連携がとれずに押し付けあっている。
たったこれしきのことで、国のために亡くなった方々の遺骨を持ち帰れずにいる。
後進国ならば仕方がないかもしれませんが、国のために死んだ人にこんなにも冷たい国は、
先進国では日本以外ありません。


東條 現地の方は必ずしも非協力的ではないのですが、
厚生省から向こうの大使館へ「活動させないように」と連絡が入ることもあるようです。
事実、私たちがパラオで活動しようとしたら「骨に触ったら逮捕する」といわれたこともあるくらいです。
そして何より問題なのは、遺骨調査が現地の人々にとって一種の商売になってしまっていることです。
自分がこれからも関わっていくので敢えて島の名前は出しませんが、
あるところでは骨を売買し、情報を売り物にしているんです。


野口 情報提供するといって金をとり、案内されて行ってみると動物の骨が撒いてあることもありますからね。

東條 
お金次第で骨のある洞窟を案内してくれたり、立入り禁止にされたりする。
私たちNPOはお金がないので、洞窟までのガイドを安く雇うのですが、厚生省が行くと1日600ドルも出す。
こうなると現地の人々は何としても厚労省を呼びたいわけです。
地元の人との交渉や関係の構築を怠って、言われるままに金を払ってしまうから、彼らは味を占めてしまった。
厚労省が悪い“クセ”をつけてしまったんですよ。
厚労省には骨のある場所を一覧にして地図までつけてファックスで送っている。
しかもその骨は、納骨堂から盗んで隠しているものだったりするんです。
そこまでやる。これは元海兵隊の方々がたまたま慰霊に訪れた時に発覚したのですが、
盗難現場をビデオに撮ってあります。
厚労省に連絡が入ると、まず日本青年遺骨収集団や日本遺族会などが赴きます。
そのときには「調査だけ」と言われて、写真を撮って帰ってくる。
調査の結果、日本兵のものだということになると、改めて厚労省が本体を送り込んでくる。
彼らはそれによって二度ガイド料を取れるんです。


野口 ゴロツキみたいなのがいるんですよね。もちろんそうでない方もたくさんいて、
私がセブ島で会ったイサベルさんは、戦争中に日本兵に家を接収されたそうです。
彼は当時子供で、親と一緒に近くの小屋に移り住んだのですが、その時にオリガサという日本兵と仲良くなった。
しかし通信基地になっていた自宅ごとアメリカの空爆を受け、日本兵はみんな死んでしまった。
それから彼はずっとその家の下に埋まっている骨を掘り続けているんです。
イサベルさん自身も歳をとっていて、細腕で日本兵の骨をこつこつと掘り続けている姿は壮絶でした。
イサベルさんは私たちが日本からやって来たのを見て、当然どの骨がオリガサさんなのかはわからないのですが
「オリガサ、日本人がやっと迎えに来たよ」と嬉しそうに骨に話しかけているんです。
でも私たちはその骨を持って帰れないことを説明すると、彼は「どうしてだ」と不思議がる。当然ですよね。


東條 
パラオの大統領やトップの方々は非常に協力的ですし、
海兵隊と一緒に来た方でお父様をパラオでなくされた方などは
「これまで東條英機を怨みに思っていたけれど、
あなたが遺骨を拾う姿を見て、怨む気持ちは一気に晴れました」と言ってくださった。
ところが何より悲しいのは、向こうへ住み着いた日本人が現地の人と組んで、
詐欺まがいのことをやり続けていたことです。
それは厚労省が現地で法外なガイド料を払うことや、
NPOに遺骨の持ち帰りを認めないことにも問題があるんです。
そこで厚労省に何度も手紙を出し、NPOに業務委託をするようにお願いしているのですが、
絶対しないと言い張る。
死亡診断書を書かないといけないとか、いろいろ理由付けしていますが、
結局は「民間が余計なことをするんじゃない」ってことなんでしょう。

東條 
NPOが始まった頃、右翼というか、ヤクザまがいの人達が遺骨収集を掲げて
たくさんNPOをつくったんです。厚労省はその時のことがあるから、いまだに警戒しています。
それでも一生懸命こちらから働きかけて、何度も手紙を出したり、
直接会いに行って「私が一緒に行けばガイドに600ドルも払わせない。
だからこれから絶対一緒にやりましょう。現地での相手方との交渉も、反故にはさせない」と説得して、
国とNPOでタイアップしましょうと言っているところです。
本来、国が認めた団体なのだから、骨を焼いてもって帰る権限があってしかるべきなのです。
そうなれば二度手間も省けるし、余計なお金もかかりません。

野口 
国がやるべきことをやらないなら、「もうこっちでやっちゃうよ」ってことですよね。
国を動かすためには、メディアとタイアップして、若い人や政治家の方を現地に連れて行く。
まずは現地に行って、現実を知ってもらうことが一番だと思います。