宮中の職人―庭園課、大膳課、編修課

文藝春秋2016年10月号
宮中の職人―庭園課、大膳課、編修課

宮内庁で働く人々には、専門家集団と呼ぶべき職員がいる。
14年に公開された『昭和天皇実録』で注目を浴びたのが編修課だ。
「実録編纂に関わった編修課の職員は、博物館の学芸員や外交史料館の職員などから抜擢されて
その任にあたりました。現在は試験採用で博士号の取得者を対象に公募をかけますが、
一人の枠に百名ほど応募があるなど狭き門になっています。東大出身者が多いですね」(宮内庁OB)
宮中では、歴代天皇の没後何周年というタイミングには式年祭が執り行われるが、
その際に資料を作成するのも編修課の仕事だという。
「例えば今年は、神武天皇2600年、春日宮天皇1300年が主だった式年祭ですが、編修課は対象となる
天皇にまつわる歴史をまとめたパンフレットを作成して陛下にお渡しします。陛下はそれを読まれた上で
識者から進講を受けて式年祭に備えられるのですが、
『この天皇の陵墓は本物ですか』など鋭い質問が飛び出すこともあります」(同前)
晩餐会や茶会、また皇族の日常の食事を準備するのが大膳課。
洋食、和食、菓子、パン、東宮担当と五つの係があるが、どんな経歴の人が採用されるのだろうか。
大膳課OBの谷部金次郎氏が自身の採用経緯を振り返る。
「義兄が日本調理師会の会長と知り合いで、17歳の時にその推薦を受けたのがきっかけです。
“天皇の料理番”秋山徳蔵さんの面接を受けましたが、料理の腕前を試されるようなことはなかった。
欠員が出ないと募集はないですから幸運な巡り合わせだったと思います」
最近は、各国の日本大使館やホテルなどで経験を積んだ中堅の料理人も採用されているという。
彼らが調理する食材は栃木の御料牧場で育てられたものが多い。約20種類の有機野菜や果物のほか、
晩餐会でメインディッシュとなる羊、牛乳やバターも生産されている。
大膳課には配膳の担当者もいる。晩餐会や園遊会など大規模な宴席の際は、民間の配膳会に派遣を
依頼するが、天皇皇后や主賓のテーブルは大膳課の職員が受け持つという。
「陛下への料理のサーブや椅子を引く役目も担います。
彼らは公務員ですが、あれほど緊張する公務員の仕事もないでしょう」(同前)
皇居や東宮御所の庭園や樹木の管理を行っているのが庭園課だ。
「やはり農業高校や農学部の出身者が多いですね。背の高い植栽の宣は業者に委託しますが、
正月用の寄せ植え盆栽『春飾り』など、宮殿を飾る数多くの盆栽の手入れは
庭園課が担当しています」(前出・山下氏)
皇后の仕事の一つである御養蚕は春から初夏は泊まり込みになるため、庭園課だけではなく
臨時の助手が特定の高校のOBから四名採用される。
ほば毎年助手を派遣している熊谷農業高校の朝比奈永晋教諭が語る。
「ウチの生徒は真面目だと評価していただき、五年も助手を務めた教え子もいますよ。
ただ助手は期間限定の雇用で、普段は庭園課の職員の方が桑園の管理をしているそうです」